富松一寸豆と聞いて 空豆 とすぐに答えられる人はほとんどないと思いますが、古くから今の尼崎市富松町辺りで栽培されている伝統野菜の
一寸空豆です。一寸とは長さの単位、約3㎝ほどでしょう。現在、各地で栽培されている空豆の多くはこの一寸空豆と言われています。この富松一寸は、4㎝に近いものも珍しくない程の大粒、面長で淡い緑色。大きな莢に二粒が理想的だとか。その来歴は様々伝えられていますが、一寸豆としては、明治から昭和の半ば頃まで盛んに栽培されていた様です。皇室に献上したこともあります。現在では都市化により、栽培地の確保もなかなか難しいようですが。
さる五月十六日に富松町の 富松神社 で催された
富松一寸豆祭におじゃましました。富松豆保存会のお世話をされている富松神社宮司の 善見 壽男(よしみ ひさお)氏 に案内いただき、早朝より保存会の皆さんが収穫されている畑に伺いました。四月の半ばに畑を見せて頂いた時には、白い花とまだ小さな莢がついたばかりでしたが、ひと月も経ったこの日は、立派な莢がおじぎをして、青物としての収穫の旬を迎えていました。保存会の方々が手分けして莢をもぎ取ってゆきます。なかのお一人に聞いてみましたところ、この空豆は大きさなどの品質の管理が難しく、アブラムシ等の対策、シルバーマルチの敷設、摘心などの手間が掛かるうえ、一度植えた畑は、連作障害が起きるため、五年の間を置かないと次の栽培が出来ないそうです。それでも今年の出来はまずまずとのこと。
いくつものコンテナ一杯に収穫された空豆は、神社の境内に運ばれます。境内の一角に広げられた莢の山は実に壮観です。前にひと莢二粒が理想と書きましたが、三粒のものもあり、手に取ってみると大きさが良くわかります。青々とした立派な莢、
空豆三日と言われますが、収穫後の鮮度が大切、祭りの目玉である空豆の限定販売用に、わざわざ当日早朝に収穫したと言うわけです。
祭り本番は午後一時から、準備に集まった氏子青年会の方々がテントやテーブルを用意、青年会婦人部
”こまち会”の女性陣と子供達が集まり、販売用の袋詰めも始まりました。一袋800グラム、400袋を超える量だそうです。おかあさんに混じって小さな子も秤に向かってお手伝い。
一方では、一寸豆ふるまいコーナー用に莢をむいています。お手伝いの小さな女の子の掌に乗った一寸豆、薄緑にお歯黒、鮮度抜群です。茹で始めた豆は、みるみる青みを帯びてゆきます。準備も万端、いよいよ宮司さんの挨拶でお祭りの始まり。塩ゆでにされていた一寸空豆も旨そうに出来上がりふるまわれてゆきます。
一年間この日を楽しみにしていた人たちが、空豆販売の整理券を受け取る行列に並んで待ちます。富松一寸空豆は栽培量が限られるため、一般には流通していません。年に一度だけの限定販売ですので、去年買えなかったと言う人が早々と並んでいました。一時間後の引き換えには皆さん笑顔で集まりました。手に入れた人は、今年もおいしい豆がいただける。と大事にかかえて帰ってゆきます。豆そのものの栄養価や効用も色々紹介されていますが、それぞれの季節のものを食す事を楽しみに、元気に一年を過ごす。それこそが最大の効用ではないでしょうか。
2009.5.16
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